角田光代さん原作のドラマ化。
山咲里沙子(柴咲コウ)は、三歳の娘・文香(松本笑花)と夫(田辺誠一)と三人で平穏な日々を送っていた。そんな時、裁判所から刑事事件の裁判員候補者に選ばれたという通知が届く。対象となる事件は、里沙子と同じ年頃の専業主婦の母親・安藤水穂(水野美紀)が、生後八ヶ月の娘を浴槽に落として虐待死させたという衝撃的な事件だった。裁判所での面談を経て、里沙子は、裁判員の誰かが急病などで欠席せざるを得ないとき、代わりに裁判員を務める「補充裁判員」に選ばれた。
同じ子供を持つ母として、我が子を殺めた水穂に嫌悪感を抱く里沙子だが、裁判の開廷後、徐々に安藤水穂という被告自身の境遇に自らの過去の記憶を重ねていくことになる。家庭という密室で、夫婦、そして親子の間で交わされた言葉は、時に刃物のように突き刺さることがある。里沙子はやがて自身の心に眠っていた混沌とした感情に惑わされていく─。
(WOWOWHPより)
WOWOWのドラマ版は原作とは少し違いましたね。
原作って正直、「辛気臭い」と思う部分がありました。
なんせ、事件の真相にはなかなか迫らない。
裁判を通して、主人公里沙子の目を通しての「考察」でしかないので、けっこう読みながらモヤモヤするんですよね。
しかもその裁判の描写が長いから、個人的に読むのが面倒だなと感じたりする部分があったというか。
裁判員のほかのキャラたちは違う考察を持っているのだけど、どちらにしろ、事件の真相ではなく、裁判員の考えたことでしかなくて、私としてはやはり何があったのか、くだんの母親は何を思っていたのかが知りたい。だからモヤモヤ。。
まぁその辛気臭い感じが著者の特徴の一つでもあるのかなと思いますが。。
ドラマのほうもそれは同じなんだけど、裁判の部分はかなり端折ってあったように感じました。
主人公の周辺に起きる出来事、里沙子が裁判員に選ばれたことで、自分の問題が浮きあがってくるんですが、そこにより大きく焦点が当てられていてとても感情移入しやすく見やすかったかな。
またほかの裁判員の家庭にも言及していて、群像劇の体があり、その辺も見応えがあったように感じました。
原作と決定的に違うのは下のネタバレ部分で触れますが、ドラマとして何がよかったかと言うと、BGMです。
里沙子の不安な心中を盛り上げるピアノ曲がいいんだよ!
そしてラストの描写には泣きました。
私は原作よりもドラマがよかったと思います。
あと、子役!!
里沙子の子どもを演じた子役の子が、素でやってるかと思うぐらいリアルでした。
子どもって可愛いだけじゃなくて憎たらしくなる瞬間もあるよね?
自分を甘やかせてくれる存在が大好きだから、それを敏感に察知して、味方がいるのがわかると増長するし、その時は母親でも憎たらしい顔で睨んでくることある!そんなリアル。
私はもうとっくに子育てを卒業しましたが、このドラマを見ていて、当時辛かったことな ど思い出したりした。
ネタバレ感想です↓原作をきっちり覚えてないので、ひょっとしたら違うこと書いてるかもしれません。すみません。
原作では、里沙子と保健相談員との関係はそこまで描かれていないけれど、ドラマでは西田尚美の演じる保健相談員が里沙子の夫のモラハラに気付くんです。
里沙子は夫と夫の両親によって、精神科に受診させられそうになります。このあたりも夫家族に対して見ている側の憎しみも駆り立てられるので原作よりも盛り上がりがあります。この人だけはわかってくれているんじゃないかと思っていた夫の父親が、実は通報主だったりとか、里沙子が追い詰められる様子が克明です。
里沙子は夫の正体(妻を貶めることで上位に立ち優越感を得て自分のアイデンティティを保つ)に気付くと離婚を視野に入れたうえで家を出ます。この行動力は見ていてスカッとします。
でもどんなに行動を起こしても、訴えても、里沙子の夫のような種類の人間は、なかなか自分の非を認めないし、何が悪いのかもわからないんですよね。
最後は家族として再出発しようという雰囲気で終わってしまったのが不満でしたが(^^;
前向きに終わりたいと言うドラマの〆で仕方がなかったのかな。
あと、母親との関係もドラマのほうがしっかりと描いてました。
ラストに、子どもを殺してしまった水穂と里沙子が海岸のベンチに座り、子育ての悩みあるあるを気楽に談笑しているシーンが印象的です。そんなふうに言い合える相手がいたら、私だけじゃなかったんだと言う安心感に救われ、子育ての閉塞感も半減し、悲劇は減るのではないかと訴えているかのようでした。
現実にもこのような事件は起きていて、そのリアルさがさすが角田さんと思いました。